漫画界の巨匠・藤子不二雄A先生は、非常に多岐にわたる名作を生み出しました。
「まんが道」「忍者ハットリくん」「プロゴルファー猿」「少年時代」「ブラックユーモア短編」他 多数。
相棒である藤子・F・不二雄先生に比べると不気味でおどろおどろしい作品がとても多く、SFを得意とする藤子・F・不二雄先生に対し、藤子不二雄A先生はブラックユーモア作品を得意としているのです。
そんなブラックユーモア作品の中でも、特に有名な作品はやはり「笑ゥせぇるすまん」です。
藤子不二雄A先生の代表作『笑ゥせぇるすまん』
謎のセールスマン・喪黒福造により、破滅に落ちていく人々を1話完結で描いたこの作品。
基本パターンは、
1.悩みを抱えている 獲物 お客様が登場
2.喪黒福造が忍び寄る
3.メリットを与える(「絶対に●●してはいけません」と約束付き)
4.お客様が約束を破る
5.「ドーン!」
6.お客様が悲惨なラストを迎え、バッドエンド
といった感じで、人間の弱さや醜さなど負の側面をあぶり出し、制裁を与えるストーリーです(本人はこれを”趣味”と明言しちゃってます)
1969年に「黒ィせぇるすまん」として漫画サンデーで連載が開始され、アニメ化に伴いタイトルを「笑ゥせぇるすまん」に変更。
その後も「帰ッテキタせぇるすまん」「踊ルせぇるすまん」と改題し連載された上、複数の読み切り作品があります。
また、純粋に人助けを行う、喪黒福造の弟を描いた「喪黒福次郎の仕事」もスピンオフ作品として存在します。
28年ぶりの再アニメ化
『笑ゥせぇるすまんNEW』
笑ゥせぇるすまんが初めてアニメ化されたのは、1989年でした。
そして2017年4月〜6月にかけて、笑ゥせぇるすまんは実に28年ぶりに再びアニメ化されたのです。
全12回でAパートとBパートの2部構成になっており、Aパートは原作漫画をアニメ化、Bパートはアニメオリジナルストーリー。
ネット上で醜い本性を露わにする人間を描いた、現代のネット社会を象徴するようなオリジナルストーリーもあり、現代にマッチした内容になっています。
自分自身を取り繕って社会生活を営む人間の闇の部分を、まざまざと見せつけられるような強烈な展開が不気味でおどろおどろしく、それがまた面白くもあるのです。
【ネタバレ注意】
11話Bパート『私はアイドル』の高クオリティすぎる2つの劇中歌「全力クリームソーダ」「渚の予感」
やたらとクオリティが高い劇中歌が存在するのは、アニメ完全オリジナルストーリーである『私はアイドル』です。
若い頃アイドルを志し、そして夢破れた間々野亜里は、自分の娘である間々野夢与にその夢を押し付け強要します。
毎日アイドル活動やレッスン漬けの日々を送る間々野夢与は、クラスメイトたちが楽しく遊ぶ姿を見てうらやましく思い、とつぜんアイドルを止めてしまいます。
そんな失意のどん底にいる間々野亜里に喪黒福造が忍び寄り、娘を思いのままに操れるネックレスを渡します。
その結果として、アイドルオーディションで親子がそれぞれ歌うシーンがあるのです。
・・・で!それぞれが歌う楽曲が、異常にクオリティが高いのです。
「全力クリームソーダ」間々野夢与
フレッシュ新人感あふれる間々野夢与が歌う「全力クリームソーダ」
透明感がある可憐なルックスと見事なダンスにより、審査員と観客を魅了します。
一学期が終わった夏休みの甘い恋を歌う歌詞とメロディは清涼感にあふれ、心地よい気分にさせてくれる名曲です。
思春期の女の子の心の揺れ動きを表現したこの曲は、何回も聞き返したくなるような魅力があります。
こんな名曲が世に知られないのはもったいないと、心から思うのです。
「渚の予感」間々野亜里
貫禄あふれる間々野亜里が歌う「渚の予感」
大御所感すらただよう円熟したルックスと往年の聖子ちゃんカットで、審査員と観客を困惑させます。
自己紹介時には「なんてったってアイドルです!」という権利関係的に危険なワードをブチ込む胆力も備えています。
ぼよんぼよんのアラフォーボディを惜しげもなく 疲労 披露。
80年代を思わせるこの曲は、意中の人と2人で浜辺で歩いている時の心情を表現しており、澄み渡るようなしっとりとした歌声で歌い上げます。
こちらも驚くほどのクオリティを誇り、何も知らない人に「昔のミリオンヒット曲だよ」と言って聞かせても納得しそうな仕上がり。
1回限り短時間しか流れないのに、不可解なほど高クオリティな理由
間々野夢与&間々野亜里は、一回こっきりの 被害者 お客様であり、他の回で曲が流れるわけではありません。
つまり、連続ドラマのように毎回挿入される劇中歌ではないのです。
従来の発想では「テキトーな曲を作るor既存の曲を使用許可を得て使う」方が、有限の労力と予算を抑えられて圧倒的に効率が良い様に思えます。
もちろん”製作者のこだわり”もあるのでしょうが、制作費を出すスポンサーが納得する理由が無いと、一回限り短時間しか流さない曲に予算をかける事は難しいのです。
あまりに不自然なほどクオリティが高すぎる理由・・・。
それは、ネットの普及により激化した娯楽コンテンツ同士の競争で生き残るための戦略です。
口コミ集客=バイラル・マーケティング
不気味でおどろおどろしい雰囲気がただよう作中で、清涼感あふれる楽曲は強烈に気を引き興味をかき立てます。
興味をかき立てられクオリティが高いものは、自然と他人に話したくなるものです。
つまり、人と話しているとき(リアルでもネット上でも)の話題が、漫画やアニメまたは音楽になったとき
Aさん
「こないだ放送してた笑ゥせぇるすまんのアニメの中で、めっちゃ爽やかでいい曲があったよ」
Bさん
「え、笑ゥせぇるすまんって、藤子Aのブラックな漫画だよね?なのに爽やか??詳しく聞かせて」
と言った具合に、情報が口コミとして人づてにどんどん宣伝されていくのです。
しかも間々野夢与は、9話Bパート「研究者はユウウツ」や、12話Bパート「ニッポン海外旅行」で、ライブを行っている姿も数秒確認でき、繰り返し思い出させることにより確実に記憶させようとする製作者の意図がうかがえます。
更に、声優もガチ親子である点も興味深く、人に話したくなる要素を強化しています。
このように、人に話したくなる仕掛けを施すことにより口コミを誘発し、口コミを聞いた人が「笑ゥせぇるすまんNEW」というアニメを観る・・・
という”コンテンツへの集客”のパターンが生まれるのです。
知り合いからの口コミは、企業が流す美辞麗句に彩られたCMよりも、はるかに信用性が高いです(企業が自分の商品ほめるのは当然すぎて効果がうすい)
街中を散歩中、見知らぬ人間に「この商品、最高ですよ。なぜなら〜」と言われるより、友人に「この商品、最高だよ。なぜなら〜」と言われる方が、信用性は異次元レベルに高いのは当たり前ですよね。
このような口コミによる集客を狙う手法は、バイラル・マーケティングと呼ばれています。
多彩な娯楽があふれている現代において、どんどん効果を強めていくでしょう。
話題性を作り、SNS拡散を促す
従来の宣伝方法といえば、テレビCMが圧倒的に主流でした。
しかし現在は、数千万円をかけて不特定多数がみるテレビCMを流すより、遥かに安価で効果的な宣伝手法がどんどん確立されているのです。
笑ゥせぇるすまんNEWでは「全力クリームソーダ」「渚の予感」だけでなく、繁華街をラッピングバスが走りSNSによる拡散を狙うなどの現代のネットを活用する手法が取られました。
↓日本人は、行列に強烈な興味を抱きます。
車内には、作品内に登場する「BAR魔の巣」が再現されており、そこで実際に酒やソーダを楽しむことができました。
2日間に渡り行列を作り、通行人に対し笑ゥせぇるすまんNEWというアニメをアピールし続け、口コミを喚起させたのです↓
口コミ集客=バイラル・マーケティングは、ネットとスマホ普及により人々の情報伝達の速度と効率が飛躍的に上がった現代に、とても適した宣伝手法といえるのです。
集客口の多様化
現代は、クオリティが極めて高い娯楽にあふれています。
Youtube、各種SNS、スマホゲーム、スマホマンガなど、それらの娯楽のクオリティはとても高いです。
そして、手軽さ=簡便性の面でも、スマホ一台あればいつでもどこでも即座にインターネットという電脳世界にアクセスし、手軽に好きな娯楽を好きなだけ楽しめるのです。
娯楽の簡便性が低かった時代は、アニメの放送日時を告知するだけで人々はその時間にテレビの前に座れるように、生活スケジュールを調整し視聴してくれたのです。
しかし、インターネットとスマホの普及により、いつでもどこでも娯楽を楽しめる現代はメディア同士が顧客の時間の奪い合いをする状況になっているのです。
ネットによる情報過多で、人々は情報を厳しく選別することを覚え、自分が強く興味を持つ(または強い必要性を持つ)情報だけを摂取しているのです。
「暇だからテレビをつけたら、なんか面白そうな番組をやってたから見ようかな」
みたいなパターンは、人々の情報選定が厳しくなった現代ではあまり期待できません。
誰もが持っているスマホは、どんな娯楽も即座に楽しめるのですから、それらを差し置いてでも能動的に番組を見たいと思わせなければならないのです。
テレビ番組を見てもらうには
「この番組を見たい!」
と明確な意志を持ってもらう必要、ひいては強い興味を惹く必要があるのです。
その手段の一つとして『笑ゥせぇるすまんNEW』では、「全力クリームソーダ」「渚の予感」という2つの劇中歌を使ったのです。
興味を惹くには、「有益性」と「意外性」が必要です。
つまり
・名曲であるということ自体⇒ 有益性
・不気味な作品の劇中歌なのに、爽やかな名曲!⇒ 意外性
ですね。
良い曲は存在自体が有益ですし、
笑ゥせぇるすまんの不気味な世界観における、清涼感あふれる名曲という意外性(更に一回限りのお客様が歌う意外性)
その両方を満たしているのです。
そして人に話したいと思わせて、口コミ集客を起こすのです。
このように、「漫画」「アニメ」「音楽」「声優」「SNS拡散」など、様々な切り口で強い興味を引いて高クオリティなものを提供し、多様な集客口を用意しないと、激化する”顧客の時間の奪い合い競争”に勝てず、ひいては創ったコンテンツを見てすらもらえなくなっているのです。
なので、ネットの情報伝達速度を強力に活用できる、口コミ集客=バイラル・マーケティングがとても有効なのです。
そして、僕はまんまと策略にハマり、この記事で劇中歌ひいては「笑ゥせぇるすまんNEW」を宣伝しちゃってるわけですね。
・・・アイドルにまったく興味がない僕が、「全力クリームソーダ」を尋常ではない頻度でリピート再生しまくっているのは、ここだけの秘密である。